『わが魂は仲間とともに』 岩井喜代仁
岩井先生の独特の語り口と話のパワーに心が引き込まれ、一気に読んでしまいました。
読み終えた後、心が震え、様々な思いが渦を巻き、寝ることができなくなりました。
岩井先生のお話は薬物中毒からの回復が主題となっておりますが、その根源は人間愛であり、全ての人の生き方に通じるものだと感じました。そして、本を読み進めるうちに、岩井先生の言葉が違和感なくスッと心に入ってきて、自分の思いと重なりました。
「底つき」 →虚飾を全て取り払った自分を素直に見つめることができるか、己の弱さ・甘さを認め受け入れることができるか。
「回復プログラム」 →問題を自分の事として真剣に取り組むことができるか、実生活の中で実践できるか。
「仲間」 →思いを共有し、共に手を取り、動いていける仲間はいるか。
「回復」 →自分は変化したか。自分が変化できた恩を誰かに返すことはできたか。
「ハイヤーパワー」 →人知の及ばない力に他力本願で頼るのではなく、自力本願で全力を尽くし機が訪れるまで耐えることができるか、またその機を見過ごしてはいないか。
様々な疑問符が頭の中を巡り、自分自身の甘さ・真剣さのなさを深く反省しました。
昨年の震災以降、日本は非常事態に陥っていると思います。特に原発事故はいまだ収束しておらず、メルトダウンを起こした原子炉はその状況さえ不明であり、核燃料は貯蔵プールから取り出すこともできないまま放置されています。最近の報道によると核燃料を全て取り出すまで30年、廃炉まで40年と試算されているそうです。この廃炉までの期間に、再び震災や事故が発生し、この現在進行形の原子力災害が拡大してしまったら、日本は、世界はどうなってしまうのか。こんな状況であるのにかかわらず、政府はあいまいな原発事故終息宣言を出し、震災後1年を機にマスコミの被災地報道は激減し、国民は被災地や原子力災害から目を背け、うやむやのうちに各地の原子力発電所は再稼働し、震災後一時的にクリアとなり国民がその目で直視した「現実」が再び霧の中に隠されようとしています。
この現在の日本の状況は全て日本人の心が作り上げているものだと感じます。震災直後に一時的に高くなった日本人の助け合い・分かち合いのエネルギーが急速に失われ、多くの日本人が再び自分の事だけに囚われ、無関心・無気力が蔓延し、まるで泥のような世情を無意識のうちに日本人自らが作り上げてしまっているように感じます。
この日本人の有様は、岩井先生が人生をかけて取り組んでおられる薬物中毒に苦しんでいる方々と同じだと思いました。
誰もが幸せに暮らせる世の中にしたいと思いつつも「原発はいらないと思うけど節電するのは嫌だ」「被災地の人々を応援したいけど、放射線も怖いし現地に行くのはちょっと・・・」など、良き思いと我との狭間に自己矛盾を抱えながらも、結局小さな目先の事だけに囚われ、自分が自分がとなって、どんどん自分の小さな世界に閉じこもり、一人ぼっちになっているのではないでしょうか。
いまこそ、日本人の温かい心を取り戻す「回復プログラム」が必要だと思いました。
その「回復プログラム」こそ、岩井先生のような実践者の生きざまを知ることであると思います。そして、自分自身の甘さ・真剣さのなさを知り、今の自分を素直に認める謙虚さと、問題を自分自身の事と捉えられる真剣さを持ち、行動できる自分に心と身体を変化させる。なによりも、同じ思いを共有できる仲間たちとつながっていく。
震災直後、日本人はあれだけの温かい心を行動に変えることができた国民です。希望は十分あると思います。私も微力ながら仲間たちとつながって行動をしていきたいと思います。
このような素晴らしい本に出会えてことに感謝します。