季刊『道』 205号より


<ロングインタビュー>
土づくりは人づくり
元気野菜の畑で育てよう子供の感性と未来

吉田俊道 菌ちゃんふぁーむ園主

吉田さんが展開する有機野菜農法は、まずは元気な土作りが土台です。

元気な土とは、吉田さんが「菌ちゃん」と親しみを込めて呼ぶ微生物が多い土のこと。

有機物が十分に分解された、微生物が豊富にいる発酵した土では、
微生物と野菜がしっかりつながるので、
微生物のパワー(菌ちゃんパワー)が野菜に伝わり、
より生命力あふれる野菜が育つのです。

吉田さんは、そうした安全で健康な野菜作りを通し、
病原菌も害虫も草もモグラも人間の敵などではなく、
すべてに役割があり、そして自然界の命が循環しているということに気づけたという。

「自然界は本当に共生していた!」

コロナウイルスに怯え、ますます食の危機が叫ばれる現代社会において、
本来の循環を身体で理解し、地球とつながる感性を持つ子供たちを育てたいと話す吉田さんに、
その活動の熱い思いを聞きました。

(吉田さんは大学卒業後、長崎県庁の
 農業改良普及員として農業に関わり、その後、
 ご自分で農業を始めて現在の活動に至っておられます。

 そもそもなぜ野菜作りの道に入られたのか、
 そのきっかけについてお話しいただけますか)

【吉田】
なぜだか知らないけれど、
野菜を作りたいと思ったんですね。

それは小学校低学年の頃、
母親がちょこっとした土地を借りて
野菜を作っていて、それを手伝っていたのですが、

たまたますぐ近くに鯉の養殖池があって、
水を抜いたら藻がいっぱい残るわけですよ。

「この藻は土にいいんだよ」と聞いて、
それを畑に入れたら、駐車場の屋根の上までツルが伸びて、
立派なカボチャがたくさんなったのです。

それを見た近くの農家の人たちが
「トシボウちゃんは、上手かね~~」と(笑)。

嬉しかったんですね。
小さい時のそういう大人の
「本気で感動する言葉」って残るんですよ。
反対もありますけどね。

幼児期に大人がどういう言葉かけをするかで、
子供は大きく変わりますよね。
私がなぜ今でも絵が嫌いかというと、
小学校低学年の時に、先生に
「お前の絵は下手か~」と言われたからです(笑)。

よく親が「うちの子はバカでね~」と言うでしょう。
その時、子供にあとでちゃんと
「これは謙遜といって、一応そう言っただけで、
 あんたは本当はお利口さんなのよ」と言わないといけない。
子供はそのまま信じますからね(笑)。

(大人はその責任を自覚していないといけませんね)

そうそう。
でもね。うちの親は違っていた。

僕は4月1日生まれなのですが、
友達が僕のことを「4月バカ」と言うのね。

それで「4月バカと言われた~」と母に言うと、
母は「なんばいうと、俊道。4月1日生まれは頭がよかとよ」と(笑)。

そう母が本気で言うんです。
僕はだから、「ああそういうことか」と(笑)。

まあ、頭がいいかどうかは別として、
お陰で僕は自分に対する劣等感は持たなかった。

そうすると好きな勉強にはすーっと入っていけた。
そういう影響はあったと思います。

人間の能力はあまり変わらない。
あとは興味を持てるかどうかで、
学力が変わりますからね。

【205号】 2020夏
http://www.dou-shuppan.com/dou205-lp/


吉田俊道(よしだ としみち)
1959年、長崎市生まれ。九州大学農学部大学院修士課程修了後、長崎県庁の農業改良普及員となる。1996年、県庁を退職し有機農業を始める。1999年、佐世保市を拠点にNPO法人「大地といのちの会」を結成し、生ごみリサイクルによる菌ちゃん野菜作りと、おなか畑の土作りによる元気人間作りを全国に広げている。
2007年、同会が総務大臣表彰を受賞。2009年、食育推進ボランティア表彰。
長崎県環境アドバイザー。NPO法人「大地といのちの会」理事長、(株)菌ちゃんふぁーむ代表取締役。