『道』200号 三枝成彰 巻頭対談「人間とは何か」
今回200号の巻頭対談にご登場いただいたのは作曲家の三枝成彰氏です。
三枝氏は笑顔がとても素敵な方で、NHKの音楽番組でよくお顔を拝見していたこともあり、お会いした時はなんともいえぬ懐かしさを感じました。
去年、野中ともよ様(185号で本誌対談に登場していただきました)のご招待で、宇城氏が、三枝氏率いる合唱団のコンサートに行かれていたので、対談はそのオペラの題材となった『最後の手紙 The Last Message』 についての話題から始まりました。
三枝氏が一貫してオペラのテーマにしているのが、反戦であると言います。三枝氏が昭和の三大悲惨と呼ぶ事件の一つに神風特攻隊がありますが、三枝氏はそこに強い「理不尽」を感じたからこそ、『KAMIKAZE ― 神風』というオペラ曲が生まれたのだそうです。三枝氏は『特攻とは何だったのか』という本を出すほど特攻について徹底的に調べたそうですが、そんな三枝氏に対し、お父様が少年飛行隊で特攻を守る護衛機に乗っていたという宇城氏との対談は、まさに臨場感あふれるものとなりました。
また、三枝氏がいかにして曲作りをされているのか、制作秘話についてもお聞きしました。忙しかった頃は1週間で7時間くらいしか寝なかったとか、1日中やってやっと7秒分ができあがるとか、まさに、絞り出すように曲が生み出されている過程がとても印象的でした。
さらに、曲をつくるだけでなく第二次世界大戦でアジア地域で命を落とした方で、いまだ野ざらしに放置されている何百万の柱を慰霊するために、合唱団メンバーを率いて元戦地に赴き献歌ツアーを企画するなど、その活動には作曲家を超えた人間としての強い思い、一貫したエネルギーを感じました。
今、政治の虚構はもとより、身内による虐待や無差別殺人など、命への冒涜が止まりません。三枝氏は、そんな時代だからこそ、戦争で生きたくても自分ではどうにもならなかった特攻という歴史の事実、そしてそこに生きた実在の人物のドラマを伝えることで、現代人にも通じる命の大切さ、戦争の理不尽さを伝えたいと語られました。