「自分が本物になり、次の世代に本物を伝えていく」 五月女貢先生のこと

植芝盛平の直弟子五月女貢先生(合気道スクールズオブ植芝主宰)は、37年以上にわたってアメリカで合気道指導を続けてこられました。以下は、6年前に来日されたときに開かれた講習会で五月女先生が語ってくださった言葉です。 講習会は、技を説明してそれを稽古する、というのではなく、開祖を語り開祖を感じてもらうために稽古がある、という雰囲気がとても印象的でした。片時も恩師・植芝盛平翁への思いが消えることのない五月女先生の、開祖への思い、日本人としての思い、それらを伝えていくのだ、という迫力が伝わってくる講習会でした。(季刊『道』150号 会見「本物をつくり、本物になる」より)

 「まず稽古のはじめに礼をしてふたつ手を打つ、そして礼をする。これは大先生に対しての礼なんです。私の教える道場では全部そうやっています。これは儀式ですね。決して宗教的なものではなく礼儀です。なぜ二礼二拍手するかというと、自分の心を開祖につなげる。開祖の心、教えというものに“結び”をする。

 一つの拍手で自分の心を伝え、次の拍手で大先生の心を受け取る。稽古のはじめと終わりに必ずそれをやる。  

 だから、号令をかけなきゃ礼ができないというのは、これは武道ではないんです。それが自然にできるようにならないといけない。「はじめ! 礼!」ではだめなんです。自ら感じて入っていく。精神的入身なんです。そして大先生の心を受け取る。これが習慣にならないとだめなんです。合気道は単なるスポーツではない、非常に精神的なものです。

 (中略)

 合気道というのは武道、武術です。武術というのは、自分を守るということ。自分を守れない技はいくらやってもだめなんです。エクササイズじゃない。一つひとつ自分を守るための動きなんです。自分を守ろうと思ったら厳しさがなければいけない。

 国だってそうです。平和平和と言うけれども、言葉で平和になるならどれだけ経済的かわからない。飛行機もいらない、軍艦もいらない、大砲もいらない。そうしたらもっと税金が安くなる。

 今、皆平和ぼけです。自分は戦場にいって血を流したこともない。戦場で兵士がどんな苦労をして国を守ろうとしているかを知らないで、Peaceというプラカードをかかげる。そういう人間は私から言わせれば非常に無責任な人間。無責任をごまかしている。本当に命がけで国を守ろうという気がない。口だけで自分の祖国が守れるんだったらこんなに楽なことはないです。自分の家族、国を守るために自分の命をかけても悔いはない。そういう覚悟があってはじめて世の中の幸せを思う。そういう厳しさがあってはじめてほんとうに国を守ることができる。これは昔からの武士道です。


 五月女先生の『伝承のともしび』は、五月女先生が命をかけて伝えようとするもの――それは開祖の心と教え――がつまっています。

 また、直弟子たちの演武映像をまとめた『開祖直弟子に見る合気道』では、それぞれの愛弟子を通した開祖の合気道がご覧になれます。ぜひ一度御一読、ご覧ください!