合気道開祖・植芝盛平の直弟子の一人で現在ワシントンDC在住の五月女貢先生は、1961年より盛平翁の内弟子として入門され開祖の下で薫陶を受けられた方です。若くして合気道普及のために渡米された五月女先生は、数々の苦労を重ねられたそうですが、そのようななかでも、開祖から学んだ日本人としての学びが、アメリカでの生活において大きな支えとなったといいます。
「私の役割は、大先生に教えられたものを消化して、
いかに自分が本物になり、次の世代の弟子を
本物にするか、それしかない」
開祖の心を技を通してだけでなく、日常を通じて日本人の心を伝えておられる五月女先生。ご著書『合気道開祖植芝盛平の教え 伝承のともしび』は、開祖の教え・心をどのように学び、どのように伝えていくのか、が詳細に語られています。
社会を厳しく見る人に共通するのは、自分自身にも厳しいということです。次に紹介する五月女先生の見方・考え方は、開祖の教えを体現しようと常に自身を厳しく律し、内省を繰り返してきたからこそだと思います。開祖を愛し、合気道を愛するすべての方にお勧めしたい本です。
以下にその一部を紹介します。
「若い世代に自信と方向性を与えるのは我々の使命」
昔、何かの本で読んだが、中国の人類学者と考古学者たちが、北京原人の遺跡を発見し発掘調査したところ、平たい石版に文字らしきものが刻印されているのを見つけた。そして長い年月をかけて、やっと解読することができた。その意味は、「今の若いやつらはどうしようもない」!!
その時、私は爆笑してしまった。現代に生きる私自身も、子供の時から両親や学校の先生たちや先輩から叱られ怒られながらしつけられ、成長してきたのである。親は、自分の子供たちに日本民族としての伝統的価値観や誇りを教育しているのか?
子供たちを責める前に、それを問うことも忘れてはならない。
今の日本で、中学生や高校生たちの会話の中で、「あのセン公」と呼ばれるような教師では、本物の教育はできない。大人たちが考えている以上に、子供たちは敏感であり、人を見抜く。戦後の日本では「修身教育」というものが排除され、伝統的な「聖職」の意味が失われ、学校は就職するための予備校と成り果て、民族、国家、社会に有用な人材を養成するという道標が失われてしまった。まさに亡国の兆しである。
(中略)
今の時代、我々は、どれだけ若い世代に自信と威厳と方向性を与え、厳しくしつけるという情熱を持っているか。デモシカ先生、教育労働者、知識の切り売り等々・・・。
現在の教師たちの世界的傾向であるが、今の学校教育において、どれだけ子供たちと教師の精神的な触れ合いがあるか。PTAの会議に出席すれば、自分の子供しか頭にない母親たち、いかに有名校に進学させるか心配している両親たちの利己主義的な生活態度。これは若者だけが問題ではない。親たちが日常生活の中で何を考えているかの反映なのである。
考えてみれば、家庭生活とは、伝統的な文化や家風という心の中に生き続ける価値観、判断力、作法等を両親が教えるところであり、小さな道場なのである。それを学ぶ塾舎なのである。昔から「三つ子の魂は百歳まで」、さらには「子は親の背を見ながら育つ」と言われてきた。親に対する礼儀、師に対して尊敬と礼を表わす儀式とか伝統、日々の生活の美しい「和敬」という精神的な作法の「道」があった。
私が道場で教える時や合宿などの指導では、必ず正座させるが、礼儀と尊敬がなければ「道」の伝承はできないのである。私はまたアメリカだからといって、自分の門人たちには絶対に名前を呼び捨てにさせない。「五月女」とか「ミツギ」とか、なれなれしく友達の肩をたたくような真似はさせないし、それに対する返事も決してしない。そして「誰に向かって言っているんだ。アメリカにも〝サー〟または〝ミスター〟という敬語がある」と教える。そして、「師弟関係において、礼儀と尊敬がなければ道の心や精神は伝承できない。私は決して合氣道の技を教えて金儲けしているのではない。私は合氣道開祖の直伝の弟子として、君たちに世界の武士道を示し、指導しているのだ」と言うのである。
(『伝承のともしび』 より)
合氣道スクールズオブ植芝主宰
1937(昭和12)年3月7日、東京都出身。フロリダ在住。
1954年10月、鍬守道場に入門。植芝吉祥丸、山口清吾に師事。
1961年4月、合気道開祖 植芝盛平の内弟子として正式に本部道場生となる。
以来20年間、開祖の薫陶を受ける。
1975年5月、合気道指導普及のため渡米。一時は合気会からは独立してAikido Schools of Ueshibaの首席として活動したが、1988年1月、財団法人合気会本部の正式な承認があった。アメリカ、カナダ、フランスなどで活動。
1991年4月、ワシントンDC市議会および市長より名誉市民の称号と感謝状を贈られる。1994年3月、アメリカにおける長年の合気道指導に対し感謝状を贈られる。
著書に、『伝承のともしび』(どう出版)がある。