吉田さんが展開する有機野菜農法は、まずは元気な土作りが土台です。
元気な土とは、吉田さんが「菌ちゃん」と親しみを込めて呼ぶ微生物が多い土のこと。
有機物が十分に分解された、微生物が豊富にいる発酵した土では、
微生物と野菜がしっかりつながるので、
微生物のパワー(菌ちゃんパワー)が野菜に伝わり、
より生命力あふれる野菜が育つのです。
吉田さんは、そうした安全で健康な野菜作りを通し、
病原菌も害虫も草もモグラも人間の敵などではなく、
すべてに役割があり、そして自然界の命が循環しているということに気づけたという。
「自然界は本当に共生していた!」
コロナウイルスに怯え、ますます食の危機が叫ばれる現代社会において、
本来の循環を身体で理解し、地球とつながる感性を持つ子供たちを育てたいと話す吉田さんに、
その活動の熱い思いを聞きました。
(吉田さんは大学卒業後、長崎県庁の
農業改良普及員として農業に関わり、その後、
ご自分で農業を始めて現在の活動に至っておられます。
そもそもなぜ野菜作りの道に入られたのか、
そのきっかけについてお話しいただけますか)
【吉田】
なぜだか知らないけれど、
野菜を作りたいと思ったんですね。
それは小学校低学年の頃、
母親がちょこっとした土地を借りて
野菜を作っていて、それを手伝っていたのですが、
たまたますぐ近くに鯉の養殖池があって、
水を抜いたら藻がいっぱい残るわけですよ。
「この藻は土にいいんだよ」と聞いて、
それを畑に入れたら、駐車場の屋根の上までツルが伸びて、
立派なカボチャがたくさんなったのです。
それを見た近くの農家の人たちが
「トシボウちゃんは、上手かね~~」と(笑)。
嬉しかったんですね。
小さい時のそういう大人の
「本気で感動する言葉」って残るんですよ。
反対もありますけどね。
幼児期に大人がどういう言葉かけをするかで、
子供は大きく変わりますよね。
私がなぜ今でも絵が嫌いかというと、
小学校低学年の時に、先生に
「お前の絵は下手か~」と言われたからです(笑)。
よく親が「うちの子はバカでね~」と言うでしょう。
その時、子供にあとでちゃんと
「これは謙遜といって、一応そう言っただけで、
あんたは本当はお利口さんなのよ」と言わないといけない。
子供はそのまま信じますからね(笑)。
(大人はその責任を自覚していないといけませんね)
そうそう。
でもね。うちの親は違っていた。
僕は4月1日生まれなのですが、
友達が僕のことを「4月バカ」と言うのね。
それで「4月バカと言われた~」と母に言うと、
母は「なんばいうと、俊道。4月1日生まれは頭がよかとよ」と(笑)。
そう母が本気で言うんです。
僕はだから、「ああそういうことか」と(笑)。
まあ、頭がいいかどうかは別として、
お陰で僕は自分に対する劣等感は持たなかった。
そうすると好きな勉強にはすーっと入っていけた。
そういう影響はあったと思います。
人間の能力はあまり変わらない。
あとは興味を持てるかどうかで、
学力が変わりますからね。
【205号】 2020夏
http://www.dou-shuppan.com/dou205-lp/
吉田俊道(よしだ としみち)
1959年、長崎市生まれ。九州大学農学部大学院修士課程修了後、長崎県庁の農業改良普及員となる。1996年、県庁を退職し有機農業を始める。1999年、佐世保市を拠点にNPO法人「大地といのちの会」を結成し、生ごみリサイクルによる菌ちゃん野菜作りと、おなか畑の土作りによる元気人間作りを全国に広げている。
2007年、同会が総務大臣表彰を受賞。2009年、食育推進ボランティア表彰。
長崎県環境アドバイザー。NPO法人「大地といのちの会」理事長、(株)菌ちゃんふぁーむ代表取締役。